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謹んで初春のご挨拶を申し上げます。

蝋梅のつぼみがほころび始めました。清々しい澄み切った青空に黄色い花が映えます。蝋梅の香りと色は、今年も家族で正月を迎えることが出来た歓びの証のようです。今冬は暖かく心配していましたが、渡り鳥たちも例年のように百道(ももち)の海に訪れています。彼らに惹かれて止まないのは、その小さな身体で命がけの長旅を行うことと、自分の内部と外部との連絡が出来ていること。

「外に立つ世界とは別に、君の中にも、一つの世界がある。君は自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。君の意識は二つの世界の境界の上にいる。大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、君の中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。

二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども」

池澤夏樹さんの「スティル・ライフ」の印象的な言葉ですが、渡り鳥たちは、事実、星空を見て定位を測ると言われています。自分を導くものが、すでに自分の内部にある。畏敬の念を感じずにはいられません。その渡り鳥たちを横目に、元旦、手製のブルームーンの新羅凧を上げました。風も多くを教えてくれます。待つこと、見えないものを感じること。眼差しは遠くに、手元は繊細に。糸で結ばれた新しい(懐かしい)出会いに想いを馳せながら、今年も進んで行ければと思います。皆さまにとっても幸多き一年となりますように。本年もどうぞ、よろしくお願い致します。