アマルフィペーパー

イタリア南部の街、アマルフィ。ここで、昔から変わらない製法で作られている紙があります。その名を「アマルフィペーパー」。アマルフィペーパーは、コットン100%。木綿の繊維を石臼ですり潰し型に流し込んでいきます。動力は水車。アマルフィの清流を含んでいるかの如く、しっとりとしていて、やさしく やわらかい肌触りは格別です。紙を触って「潤っている」と感じたのは初めてでした。また、透かしの具合も。しっかり見ないと気付かないところに、イタリアならではの気質を感じます。ちなみに数年前、作曲家の千住明さんが、アマルフィのスタンパトーレ(活版所)で、アマルフィペーパーに五線紙を印刷してもらっていました。モーツァルトやロッシーニも愛したそうです。

その源流を。1400年頃、ヴェネチア、ジェノバよりも先に海洋国家として栄えていたアマルフィにイタリアで初めて製紙技術が伝わります。これによ りこれまで羊皮紙で作られていた写本が紙による印刷物となっていきます。アマルフィーペーパーは保存にもすぐれ、当時活版で印刷された多くの書物(イン キュナブラ)がヴァチカン図書館に残っています。スタンパトーレのあるところには、言わずもがな紙がかかせません。活版文化が隆盛する背景。というよりは むしろその原動力としてアマルフィーペーパーの力は絶大だったと感じます。補足ですが、街の玄関口の広場には羅針盤を発明したアマルフィ出身の、フラビオ・ジョイアの銅像がありました。グーテンベルクから始まった活版印刷はこの地で羅針盤と出逢い、ヴェネチア、ジェノバとともに活版文化は一気に華開き、 遠く、長崎、加津佐に辿り着くこととなります。断崖絶壁の険しい土地に連なる民家と、深い紺碧の海が長崎や天草を思い起こさせ、しばし感慨にふけりました。

アマルフィペーパーは「青い月|AOITSUKI PRESS」では、詩のある封筒に使用しています。