その先へ

今、手元に先日、福岡県立美術館で開催された「糸の先へ -いのちを紡ぐ手、布に染まる世界」の図録がある。展覧会自体が美しかったのは言うまでもないのだが、僕はこの図録が好きだ。編集者の想いがひしひしと伝わるそれが。自分を“その先へ”連れていってくれる一節があるので、ここに紹介したい。

“現代において何事も「広げる」ことがもてはやされている。知識を広げ、仕事を広げ、ネットワークを広げと、どれだけ多くのことをコミットできるか試されているようだ〜中略〜自身が立つ足元の地平を横へ横へと闇雲に広げていったところで、それがせいぜい蜘蛛の糸か今にも割れそうな薄氷のごときものでできているのなら、その上を歩くのもままならない。それよりもこの足元から深く掘り下げていけば、まるで地球の裏側にでも彫り貫いたかのような未知なる空間が広がっているかもしれないのだ。たしかに効率的ではないし、そんな広がりに到達できるにしても生きているうちには無理かもしれない。でも、それでもいいと思えるのは、自分が生きているのは自分ひとりの力ではなく、家族や友人、自然、歴史、未来、あらゆるものとつながって生き、生かされていることが腑に落ちているからだろう。あらゆるものとつながりながら生きて在る訳だから、あらゆるものとつながろうと今さら手を広げる必要もない ”

「すでにつながっている訳だから、それを“ほどく”作業がこれからは必要なんじゃないかな」。そんなことを話していたのを最近、よく思い出す。中に向かうことが即ち外に向かっているということも。“営業に”ならないかと発することを臆していたけれども、己の“営為”として、いろいろなことのその“もつれ”をほどいていくために、深く掘り下げていこうと思う。月の引力の強い、今宵からふたたび。