子どもたちに活字の話を

西海市教育委員会の依頼で西海市の小学6年生たちに出張授業を行なってきました。天正遣欧少年使節や活字・デザイン・印刷などの話を。あわせて加津佐図書館所蔵のグーテンベルク式活版機を使っての体験も。ふるさとの文化を感じ、見識を広げることにつながればと思っています。

はやいもので、去年の今頃は長崎県教育委員会の依頼で、ASEANの東アジアの中核を担う次世代リーダーを養成する事業の一環でマレーシアとカンボジアの子どもたちに、日本(長崎)の活字や印刷の話を行なっていました。長崎は活字や活版だけではなく、平版や写真、出版など「伝える」ことのふるさとでもあります。地道ですが、こうして継続的に活動していくことで、まちがより魅力的なものになっていければと思っています。

現在、今年100年を迎えた長崎県立図書館の再整備計画が出島か大村の方向で進んでいます。先日、せんだいメディアテークを訪れた際、場が持つ力や仙台の人達のエンパワーメントの高さに心から感動しました。ああいう場所があったらなあと、少し羨ましくもなりました。メディアとして活版を学べる場所もありました。離島が多い長崎には年中行事や祭礼など特色のある様々な「ハレ」と「ケ」の風景があります。図書館単一としてではなく、そういった情報・文化複合施設になればと淡い期待と青写真を描いています。

星野道夫 アラスカ 悠久の時を旅する

“人間の気持ちとはおかしいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人のこころは深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きて行けるのでしょう”

一日に一回、星野さんのことをふと想うときがあります。事故後は顕著に。妻や友の支えは勿論ですが、星野さんの支えも随分と大きいことを感じます。星野さんのこんな言葉があります。

“子どもの頃に見た風景がずっと心の中に残ることがある。いつか大人になり、さまざまな人生の岐路に立った時、人の言葉でなく、いつか見た風景に励まされたり勇気を与えてられたりすることがきっとあるような気がする。”

これは自身の原風景と重なることもあり、子どもと接するときに特に胸に留めている言葉です。ですが、不思議なのが、いざ自身が岐路に立たされてみると、星野さんという“人の言葉”に随分と励まされ、勇気を与えてもらっていることに気付きます。突き詰めて考えて見ると、星野さんとの出逢いは(と言っても本の中ですが)、ひとつの僕の子どもの頃の風景でした。人間も自然であると教えてくれたのは星野さんでした。情報が極めて少ない世界が持つ豊かさ、そこから生まれるクリエイティビリティの大切さ(デザインの本質)も教えてくれました。自分の心の中には、永遠に星野さんの居場所があります。自身が困難なときも、安息なときも、それは根源的で揺るぎない存在です。星野さんのやさしく慈愛に満ちた眼差しや瑞々しく誠実な言葉は、いつもさまざまな示唆を与えてくれます。

11月16日(金)から12月5日(水) まで、FUJIFILM SQUAREで企画写真展「星野道夫 アラスカ 悠久の時を旅する」が開催されます。星野さんが事故で、亡くなる直前まで撮影をしていたロシアのカムチャツカ、チュコト半島の未発表写真も展示されるそうです。岐路に立たされたとき、星野さんはいつもそこにいます。

市民文芸

福岡市民(都市圏)から短歌、俳句、川柳、詩、随筆、小説・戯曲を募り、優れた作品を選考・顕彰する「市民文芸」。毎年、2千強の応募がある福岡市で47年続く伝統的なものですが、48年目は、より多くの人達に知ってもらう、親しんでもらうために、これまで発行していた冊子を大幅にリニューアルすることになりました。先日、応募作品の選考が行なわれ各賞が決まり、来月、27日にはアクロスで表彰式が行なわれます。その表彰式に合わせていよいよ冊子の製作もはじまりました。

驚くほどに、パブリックなものととパーソナルなもののあわいに立ちながら、活字や本や文学の仕事がつながっていきます。それは遠い過去に自分が望んでいたもので、「それをただの偶然と思うのか?」と、言うミヒャエル・エンデの言葉が今とてもしっくりときています。

本屋さんで活版

お天気にも恵まれ、美しくあたたかな木漏れ日の差す中「「Enjoy printing!」、無事終了しました。お越し下さったみなさま、ありがとうございました。ご自身でプレスされた栞、お気に入りの本にぜひ使ってください。活字は本の中や、本の傍がやっぱり居心地が良いと思います。本屋さんの前で、そして人々が行き交う屋外でこのような活版の催しができたこと、とても意義深いことだったと感じています。ありがとうございました。ブックスキューブリック店主、大井さんが選んでいたもうひとつの言葉をご紹介。

「たとえば知性というものは、すごく自由でしなやかで、どこまでもどこまでものびやかに豊かに広がっていくもので、そしてとんだりはねたりふざけたり突進したり立ちどまったり、でも結局はなにか大きな大きなやさしさみたいなもの、そしてそのやさしさを支える限りない強さみたいなものを目指していくものじゃないか、・・・」

これは、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」から。実は僕が倒れていたとき、とある方から偶然にもこの一冊をお見舞いで頂きました。今、庄司さんのような本が必要なのかもしれないね。そんな事も大井さんと話しました。自分を取り巻く世界との苦悩や葛藤、揺れながら悲しさや虚しさを抱きつつも、ブレない強い意志と信念で行動して行く。確かに不様で青々しいけれども、そこには、確かに他者への「やさしさ」があります。賢治さんとも重なるところがあり僕にとっても大切な一冊となりました。

好きな一節を。本当はこの後に続く一節が、ちょうどその時の自分の心境とも重なるところがあって最も好きです。機会があったら、ぜひ読んでみてください。

「ぼくは海のような男になろう、あの大きな大きなそしてやさしい海のような男に。そのなかでは、この由美のやつがもうなにも気をつかったり心配したり嵐を 怖れたりなんかしないで、無邪気なお魚みたいに楽しく泳いだりはしゃいだり暴れたりできるような、そんな大きくて深くてやさしい海のような男になろう。ぼくは森のような男になろう、たくましくて静かな大きな木のいっぱいはえた森みたいな男に。そのなかでは美しい金色の木もれ陽が静かにきらめいていて、みんながやさしい気持ちになってお花を摘んだり動物とふざけたりお弁当をひろげたり笑ったり歌ったりできるような、そんなのびやかで力強い素直な森のような男 になろう。そして、ちょうど戦い疲れた戦士たちがふと海の匂い、森の香りを懐かしんだりするように、この大きな世界の戦場で戦いに疲れ傷つきふと何もかも空 しくなった人たちが、何故とはなしにぼくのことをふっと思いうかべたりして、そしてなんとはなしに微笑んだりおしゃべりしたり散歩したりしたくなるような、そんな、そんな男になろう・・・・。」庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」

Enjoy printing!

本日(11/3日)、11時から16時まで、ブックスキューブリックけやき通り店で「Enjoy printing!」を行ないます。キューブリックけやき通り店で、書籍を購入された方に活版印刷(レタープレス)のしおりをプレゼント。お店の前にプレス機を準備していますので、レシートと引き換えに一冊に一枚、紙(ポルカとブンペル)を選び、ご自身でプレス(印刷)を楽しんでください。

屋外で、そして人が行き交う通りでプレスを行なうのは初めてです。また、活字好き、本好きの人達がたくさん集まると思うと、わくわくしてきます。みなさまにお会いできるのを楽しみにしています。本日は「一箱古本市inけやき通り」が行なわれるけやき通りへ、ぜひ。