大切なもの

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週末は、命日で春を思わせるほがらかな日和の中、妻と想い出の場所をゆっくりと巡りました。あの日も同じ様な暖かい日でした。澄んだ青空に飛行機雲のようなきれいな線を描いて消えて行きました。ハクモクレンの暖かそうなつぼみと、白い梅の清々しい香りが悲しみを和らげ、笑みをもたらせてくれました。

久しぶりにふたりで訪れた長丘、長住は変わっていないようで、でもやっぱりどこか変わっていました。もうここは僕らの場所じゃないんだなと思いながらも淋しさではなく、随分と大切なものに包まれて暮らしていたんだなと気づき、温かい気持ちになりました。




わたし(たち)にとって大切なもの | 長田 弘『死者の贈り物』より



何でもないもの。朝、窓を開けるときの、一瞬の感情。熱いコーヒーを啜るとき、不意に胸の中にひろがってくるもの。大好きな古い木の椅子。

なにげないもの。水光る川。欅の並木の長い坂。少女たちのおしゃべり。路地の真ん中に座っている猫。

ささやかなもの。ペチュニア。ペゴニア。クレマチス。土をつくる。水をやる。季節がめぐる。それだけのことだけれども、そこにあるのは、うつくしい時間だ。

なくしたくないもの。草の匂い。樹の影。遠くの友人。八百屋の店先の、柑橘類のつややかさ。冬は、いみじく寒き。夏は、世に知らず暑き。

ひと知れぬもの。自然とは異なったしかたで人間は、存在するのではないのだ。どんなだろうと、人生を受け入れる。そのひと知れぬ掟が、人生のすべてだ。

いまはないもの。逝ったジャズメンが遺したジャズ。みんな若くて、あまりに純粋だった。みんな次々に逝った。あまりに多くのことをぜんぶ、一度に語ろうとして。

さりげないもの。さりげない孤独。さりげない持続。くつろぐこと。くつろぎをたもつこと。そして自分自身と言葉を交わすこと。一人の人間のなかには、すべての人間がいる。

ありふれたもの。波の引いてゆく磯。遠く近く、鳥たちの声。何一つ、隠されていない。海からの光が、祝福のようだ。

なくてはならないもの。何でもないもの。なにげないもの。ささやかなもの。なくしたくないもの。ひと知れぬもの。いまはないもの。さりげないもの。ありふれたもの。

もっとも平凡なもの。平凡であることを恐れてはいけない。わたし(たち)の名誉は、平凡な時代の名誉だ。明日の朝、ラッパは鳴らない。深呼吸しろ。一日がまた、静かにはじまる。

加冠の儀

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今年の初ライドは飯盛山まで。飯盛山のシルエットはとても美しく、マンションなどがなかった時代は遠くからもその姿を崇めることができ、さぞかし荘厳なものだったんだろうなあと想像するに容易いです。その麓にある飯盛神社では、今でも現在も古式に則った元服式(成人式)が行われています。昨年も主に近辺の男性13名、女性10人が参加し「加冠の儀」が行われました。男性は直垂を、女性は中世の晴れ着である水干装束(すいかんしょうぞく)に着替えさせてもらい、その後、烏帽子をかぶせてもらって(冠婚葬祭の冠は冠を頂くこと)、おとなの仲間入りを果たしました。厳かな雰囲気の中にも、地域の人たちの温かい眼差しがあったのが印象的でした。新興住宅地で育っただけに、このような自分とふるさととを結びつける通過儀礼には憧れがあります。今年も12日、13日の両日14時から行われます。

いってらっしゃい

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ここ数年の元日はまだ陽も登らぬ中、妻と自転車で福岡空港まで行き警備員さんに送迎デッキを開けてもらい、誰か知り合いが乗っている訳でもないのに、その年の初フライトを見送っていました。今年はせわしい暮れを過ごしたこともあり、ゆっくりと過ごしました。けれども、おのずと気持ちが向いて空港まで。

整備を終えた整備士さんが、手を振り深々と頭を下げ、旅立つ飛行機を見送る瞬間が好きです。それはまるで協奏曲を弾き終えお辞儀をするピアニストのようで、万感の拍手を贈りたくなります。柳田國男のどの本に書いていたかは忘れてしまいましたが、「いってらっしゃい」には、“行って、帰ってらっしゃい。そしてまた会いましょう”という意味があり、手を左右に振る行為は、お祓いと同じで手を振る事で旅立つ人の無事を祈ったと言います。そう想うと整備士さんの“いってらっしゃい”はもちろん、日本中で毎朝生まれる“いってらっしゃい”も、とても尊いものなんだと感じます。

ホームページリニューアル

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東長寺、円覚寺、聖福寺、順心寺、承天寺と、お寺巡りをしました。博多の寺町は喧騒もなくいつも清々しく、朗らかな気持ちになります。お正月の空気は更に、気持ちがよかったです。歩きながら妻と今年のいろいろの計画も立てました。

その計画のひとつ、後回し、後回しになっていた、わたしたちのホームページをようやくリニューアルすることができました。すべてではありませんが、おおよその仕事はアップすることができました。デザインは、デザインから遠い場所にいるひとたちにこそ、必要なんじゃないか。そんなことをよく妻と話します。わたしたちにできること、わたしたちだからできることを、これからもコツコツと地道に励んでいきたいと思います。

青い月| http://aoi-tsuki.com/

2014 元旦

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新年のご挨拶を申し上げます。

晦日は幼馴染み宅に集い、おじさんの打ち立ての蕎麦と日本酒に舌鼓を打ちました。年ごとに竹馬の友たちの妻が増え、そして子どもたちと家族が増えていき、ひとつのテーブルを囲みながら、一年間の労をねぎらいあい、そして来年の健闘を願い合う。その賑やかな時間はとてもありがたく幸せなことで、また一年がんばろうと思えました。

さて、今年の我が家のおせち料理。いつものように妻は、高価な食材を使うこともなく、手間ひまかけて料理を楽しんでいました。今年はいつもと違い、てん菜糖で。いつもより味に深みが増し、お酒もすすみました。くわいの芽を持ち、口に運ぼうとすると妻が「あー、身から食べないっ。芽から!」と叱咤され持ち直して、芽から食べました。“芽が出る”という意味があるそうで、さすがに今年は芽を出さないとね、と初笑いでした。その他にも見通しが良いレンコン、豆に働く黒豆、お金が貯まるかしわの文銭煮、そして夫婦共に腰が曲がるまで寄り添う海老など。本当に先人たちはすごいなあと感謝し、一つひとつ深く味わいながら、そして家族や友人の健康を願いながら、日本の元旦をゆっくりと過ごしました。

皆様の健康とご多幸を心よりお祈りいたします。本年もどうぞ、よろしくおねがいいたします。