作るときのきもち

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聴覚障がいのある職人さんたちの木工所へ。2年程前、西新駅構内に福岡市内の福祉作業所で作られた商品を販売するショップのデザインを行いました。その際、カウンターをお願いしたかったのですが、地下鉄の駅構内と言う事もあり不燃材の限定で、小さな什器なども木材を使うことは出来ませんでした。ですがこうして、一緒に取り組める時期が訪れたこと、とても嬉しく思います。

今回のプロダクトは、社会的な課題、問題と市民(生活者)とをむすぶ“ブリッジ”になるので、親しみがあり、つい触りたくなるものと思い入れも強く、イメージもあり図面を引いていました。ですが話を伺う中で、普段は決まった仕事が多いことも聞きました。思う事もあり、今回は息抜きとまではいきませんが、いつもと違った楽しさを感じながら作っていただきたいなと、お見せした図面を忘れてもらい、一切を委ねました。自分がデザインしたということより、職人さんたちの作るときのきもちを大切にできれば、と。笑いながら、楽しみながら作られている姿を想像すると、なんだか僕も嬉しくなった訳です。どんな試作品が上がってくるか、楽しみです。

Because who is perfect?

いつからか“ふつう”と言う言葉を使うことを躊躇するようになりました。なぜならそれは、これまで自分が当たり前と感じていた“ふつう”は違った視点ではまったく別の物だったという事を知ったからです。そして、いつからか“ふつう”と言う言葉を意識して使うようになりました。さまざまな環境の人たちとの境界のようなものを作っていたのは案外、自分だったかもしれないと思うようになったからです。後遺障害が残った後、ユングのWounded Healer(傷ついたヒーラー)と言う言葉を知りました。デザインと言う行為に癒しや緩和があるとするのならば、それもまた自分に与えられた役割のような気もしています。自分の“ふつう”じゃなく、誰かの“ふつう”を感じとれる想像力を育めればと。

さて、海外で話題になっている映像のご紹介を。煌びやかなクリスマスのショーウィンドウで多くの人が賑わうスイスのバーンホフ通りで、12月3日に制定されている国際障害者デーのプロモーションが行われました。行ったのは障がい者のQOL向上などをサポートする人権団体「Pro Infirmis」。数名の身体障がい者の協力を得て、彼らのプロポーションそのままのマネキンを作り、そのマネキンに服を着せショーウィンドウに飾りました。普段は“パーフェクト”なプロポーションのマネキンですから、行き交う人々はいつもと違う姿に戸惑いを見せます。けれども、「who is perfect?」と言うように完璧な人はいません。自分を取り巻く日常の中から意識が変わって行くことで、障がい者と健常者の間に境界は消え、同じ社会の中で共に暮らしているという事を実感できる。そんなメッセージが伝わりました。“障がい者が”と言う形容が外れたアプローチに次の可能性を感じます。

momo

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福岡市社会福祉事業団が運営する地下鉄西新駅構内のお店
「momo」さんのポスターのようなサインをデザインしました。
消防法により燃える素材でのサイン設置は禁止されていて、燃えない素材を使って新しくしました。
momoさんは福岡市内及び近郊の福祉作業所で作られた商品を扱っているお店。
店頭スタッフの方も就労支援の場になっています。
閉ざされた場所でなくそういった直接的な社会との接点がある場所ではどのようなデザインが相応しいかを考え、
港のようにmomoに市内の商品が集められ様々なところに旅だっていくこともあり、
いかりをモチーフに「もも」のひらながなでデザインしました。今では西新駅にとけ込んでおり、ほっとしています。
ちなみに、momoさんでは福岡市内の図書館で借りた本も返すことができます。
結構、多くの方がそういう利用をされていて、momoが身近な存在になっていて嬉しくなりました。

福祉のデザイン

先週末は、国際ユニヴァーサルデザイン会議、ふくおか共助社会づくりフェアと、福祉のデザインについていろいろと考える時間でした。

せっかく、デザイナーとして独立したのだから、何のしがらみも持たず、ニュートラルな立ち位置で、誰かの役に立つ仕事を行なっていこう。見落とされているかもしれないけど必要とされる仕事を行なっていこう。と、意気込んでいたものの、福祉に関しては知らないことばかりで、体当たりを重ね数年が経ちました。悔しい想いや、役に立てないもどかしさもたくさん感じてきましたが、気付けば、福祉とデザイン(広報)について、人前で話す機会を与えてもらうようになりました。ですが、何が正解なのかわからないのが、正直なところです。発信することが是。果たしてそうなんだろうかと懐疑的な自分もいます。

ふくおか共助社会づくりフェアにも、講師として参加していたこともあり、当日は多くの懐かしい方々に会うことができました(みなさま、お久しぶりでした。嬉しかったです)。それで、ひとつだけ気付いたことがありました。何も意識して発信しなくても良いんじゃないかと。5年、10年と日々のその人の営み、その人の行ない、その人の存在そのものが充分に発信になっているということ。地道な轍は、浮ついた轍より、深くしっかりと刻まれていることを感じました。戦略は必要ですが、眼差しは遠くに、一歩一歩踏みしめて歩いて行く。志しを持った人が歩いていくことに専念できるように、茨を刈ったり、はきやすい靴を準備したりと、それがデザイナーとしてできることなのかな。と、今の僕なりの着地点です。

それから、もうひとつ。今年の始め立ち上げの際、デザインをてがけた「ふくおかかつぎてけいかく」。NPOなどの為のいわゆる、キャパシティビルディング(組織基盤強化)の支援を行なう福岡県のプロボノ事業ですが、かつぎて(スキル提供者)登録者が40名を越えたそうです。デザインだけでなく、会計や事業計画などさまざまな形で、サポートが始まっている報告例を聞いて嬉しくなりました。キャパシティビルディングという言葉を耳にする機会が随分と増えて来ました。それほど、根幹的なことなんだと思います。まさにお互いさまである、この取組みがより浸透していけばと願っています。