ポルカとブンペル

いよいよ今週土曜日となりました。「ブックオカ」のメインイベント、「一箱古本市inけやき通り」が行なわれる11月3日(土)、ブックスキューブリックけやき通り店で「Enjoy printing!」を行ないます。キューブリックけやき通り店で、書籍を購入された方に活版印刷(レタープレス)のしおりをプレゼント。お店の前にプレス機を準備していますので、レシートと引き換えに一冊に一枚、紙を選び、ご自身でプレス(印刷)を楽しんでください。

紙は、本のお祭りの日でもありますので装幀家、名久井直子さんが作られ、今月発売された「ポルカ」をご準備。以下、名久井さんの言葉。

「海外でひろった、変な、でも素敵な紙をイメージしました。風合がガサッとしているのに、よく見るとチリの色がカラフルです」

確かに変ですてきな紙です。きれいな色の玉の入り具合もランダム。何処か懐かしく、とても愛嬌のある紙だと思います。紙の色(名前)もメレンゲ、キナコ、トウフ、ソバ、コンニャク、モモ、ライム、ソーダ、アケビ、カステラと、とてもチャーミング。当日何が準備されているか、どうぞお楽しみに。それから、同時期に発売された寄藤文平さんがつくられた、クラフト紙やダンボールのような「ブンペル」も準備。ブンペルは、文化、ペーパー、パル(友人)を組み合わせた名前だそうです。素敵ですね。ポルカはカラフルで少し薄い紙です。ブンペルは素朴で厚みのある紙です。キューブリックで本を購入し、お好きな紙を選んでプレスを楽しんで下さい。

キリスト教の伝来と西海の歴史

長崎県西海市西彼総合支所(オランダ村)にて、横瀬浦開港450周年記念事業企画展「キリスト教の伝来と西海の歴史」が11月10(土)から12月2日(日)まで行なわれます。1562年に開港した横瀬浦は、日本で最初のキリシタン大名である大村純忠が洗礼を受けた地であり、天正遣欧使節の中浦ジュリアンの生誕地であり、『日本史』を著したイエズス会のポルトガル人宣教師ルイス・フロイスが日本で最初に上陸した歴史的な場所。横瀬浦はポルトガル船が来航し大いに栄えますが、領内の仏教弾圧の反感から内乱が起こり、一夜で街が全て焼き尽くされます。展示ではその横瀬浦開港と消失の歴史、大村純忠の名代としてヨーロッパへ派遣された天正遣欧少年使節に関する資料(1585年ローマにてプレスされた「日本使節グレゴリオ13世謁見の枢機卿会議記録」など)、秀吉が福岡箱崎で発した伴天連追放令に関する資料、外海で信仰を続けた潜伏キリシタンの資料などが展示されます。先日メンテナンスを行なった南島原教育委員会所蔵のグーテンベルク式活版印刷機も展示されます。その印刷機で日本初の活版印刷による書物、「サントスの御作業の内抜書」を刷る体験も予定しています。

1605年に長崎のコレジヨで刷られたキリシタン版「サカラメンタ提要」。キリスト教の典礼書で、中には19曲のグレゴリオ聖歌が印刷されています。五線譜は朱で、音符は四角くスミで刷られた美しいものですが(日本初の活版による楽譜印刷、二色印刷)、思えば洋楽も、洋楽器も彼らが日本に持ち込んだものでした。先日行なわれた横瀬浦開港450周年式典では西海北小学校の生徒と、中浦ジュリアンと同じく天正遣欧少年使節の一員であった伊東マンショが没後400年と言うこともあり彼の地、宮崎県西都市都於郡小学校の生徒たちが招待されていました。そして、「サカラメンタ提要」から数曲披露。澄んだ横瀬浦の夏空にラテン語の聖歌が響き渡りました。


横瀬浦開港450周年記念事業企画展「キリスト教の伝来と西海の歴史」
日時:2012年11月10日(土)~2012年12月2日(日)
場所:西海市西彼総合支所2階(オランダ村)
主催:横瀬浦開港450年記念事業実行委員会、西海市、西海市教育委員会   


サカラメンタ提要/Tantum Ergo

はじめての輪行

自転車を分解して専用の袋に入れて公共交通機関を使って運び、旅先で乗ることを「輪行」と言います。地球にやさしいのはもちろんですが、なにより旅先で自分の自転車に乗れるというのは、この上ない喜びがあります。私が乗っているランドナーは、もともとフランス語で“小旅行”と言う意味で、とても輪行に適しています。リハビリを終えたら、何処かへ旅したいと思っていたら、南島原の加津佐図書館にグーテンベルク式活版印刷機のメンテナンスに行くことになりました。思い立って妻を誘い、はじめての輪行をしました。交通機関を使って、小浜まで。それから南島原の加津佐まで、海沿いを往復約40km とても清々しい小旅行となりました。


前の晩、アトリエで分解の練習を。はじめての分解でしたが何とかうまくいきました。

博多駅で、ランドナーとミニベロを分解し、輪行専用の輪行バッグに詰め込みます。車内では車窓からの風景を楽しみながら、のんびりと読書を。

小浜に着きました。組み立てていきます。ブレーキが外れているトラブルがありつつも、妻の持ち前の器用さで乗り切ります。一人だったら途方に暮れていました。

ずっと海沿いを走ります。サンチャゴへの巡礼路は山、活版巡礼は海と言ったところでしょうか。

神々しい景色が続きます。“人間がこんなに哀しいのに主よ、海があまりに碧いのです”と、遠藤周作の言葉を思い出します。

妻がまるで、南イタリアのサレルノのようだと言った、南串山。海岸線と石積と起伏が独特の景観を作っています。南串山中学校の生徒たちが校舎の窓から大きな声で声援を送ってくれました。

目的地、加津佐。加津佐のシンボルである岩戸山が見える丘から。1590年、天正遣欧少年使節の一行がヨーロッパからグーテンベルク式活版印刷機をこの地に持ち帰ります。聖地と呼ぶに相応しく、彼らもこの景色を見ていた、ここで刷られていたと思うと、込み上げてくるものがあります。

加津佐で1591年に日本で初めての金属活字を使った「サントスの御作業の内抜書」が刷られます。現在、加津佐図書館にはその同型のグーテンベルク式活版印刷機があり、これを再び刷れるようにするのが、今回のミッション。

メンテナンスを行ない、再び刷れるように。図書館の方々が「また、サントスが刷れるんですね」と口々に仰られていたのが印象的でした。大切に語り継いで行って欲しい加津佐の文化です。

一仕事終え、帰路へ。夕陽がとても美しい場所なのですが、案の定の曇り。でも、十二分の景色。サヨナラ、加津佐。また来ます。

熱量日本一の小浜温泉。疲れた身体を癒します。作られすぎていない、こじんまりとした温泉街にホッとします。

地獄蒸し釜が何と無料。準備良く、妻が野菜や食器を博多から持ってきていました。カザミ(ワタリガニ)は地元の魚屋さんで400円程。同じく無料の日本一長い足湯に浸かりながらYEBISと一緒に。至福のひととき。

翌朝の凪いだ小浜の海。小浜の海はいつ来ても、やさしいです。人生において、心身ともに緩和できる場所があるとするのならば、僕らにとって、それは小浜のことなんだろうと思います。

最後に。心からおじさんに感謝を。おかげさまでこうしてまた、自転車に乗れる日が訪れました。

ブルームーン

イタリア帰りの彼女が、「植栽を見に行ったら、ブルームーンっていうバラがあったから」と、鉢物のバラを贈ってくれました。南区に住んでいた頃、植物園が近かった事もあり、よく妻と出かけていました。春と秋に咲き誇るバラ園の中でも、ブルームーンは、ひときわ甘美な香りを漂わせており、うっとりとし、毎年美しい花を咲かせるそのバラ園で写真を撮ったものです。バラの世界は奥深く、図鑑や「バラの育て方」の本などを見ては、おじいさんになったら、バラを育ててみたいと、ささやかな夢を抱いていました。

思えば事故後、随分と生け花からも遠ざかっていました。花に触れる時間というのは、本当に無になれる時間で、だからこそ今、必要な時間だったのかもしれません。再生の途上にある我が家に来てくれたこのバラを、ゆっくりと愛でていきたいと思います。本当にありがとう。

青春への恋文 -文芸誌「午前」とその周辺-

福岡市文学館(福岡市文学振興事業実行委員会・福岡市教育委員会)の企画展、『青春への恋文 文芸誌「午前」とその周辺』のアートディレクションを行ないました。

「午前」は戦後すぐの昭和21年に“福岡を編集した男”とも言われる、北川晃二や真鍋呉夫らが中心となって発行された文芸誌。今年生誕百年を迎えた檀一雄や、若き頃の島尾敏雄、庄野潤三、三島由紀夫なども寄稿しています。戦争によって“失われた青春”を断絶として捉えず、文学によって新しい時代を切開いて行こうという気高さや、ほとばしる情熱、その奥の深い葛藤などが刻まれています。ちなみに「午前」は、編集を務めた北川晃二とその意志を継いだ方々によって、地域に根差した文芸同人誌として今も福岡で継続されています。以下は「午前」創刊号の編集後記の眞鍋呉夫の言葉。

こゝに世代へのさゝやかな信頼と愛情のあかしとして「午前」を贈ります。文化の廃墟の中から謙虚な祈念で僕達は昭和の精神と立言します。決意として、愛として。僕達はここに世代の自他を含めて「午前」に僕達の祈念と開花の一切を賭けます。

彼らに敬意を払い、その想いを崩さないように、フライヤーは創刊号のサイズ、質感、雰囲気をそのまま残したデザインにしました。三島由紀夫の書簡なども展示されますが、その持ち主の先生から「なかなか洒落ていて素敵ですね。こだわり派だった三島氏もお喜びでしょう」と、嬉しい言葉を頂きました(このひと言でお酒を呑んだのは、言うまでもありません。10代の頃、東南アジアを旅したとき、着替えよりもむしろ三島作品や白樺派などの本の方が多かったのです)。

会場は、福岡市総合図書館(主に第一次「午前」や原稿、書簡など)と、福岡市赤煉瓦文化館(北川晃二が編集を務めた第二次「午前」以降)の2会場開催。すでにイベントはひとつ終了しておりますが、現在製作中の図録に合わせたイベントなども予定されていますので、また後日お知らせしたいと思います。


青春への恋文 文芸誌「午前」とその周辺
日時:2012年11月14日(水曜日)~2012年12月16日(日曜日)
場所:福岡市文学館(福岡市総合図書館・福岡市赤煉瓦文化館)
企画展概要@福岡市HP