星野道夫 アラスカ 悠久の時を旅する

“人間の気持ちとはおかしいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人のこころは深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きて行けるのでしょう”

一日に一回、星野さんのことをふと想うときがあります。事故後は顕著に。妻や友の支えは勿論ですが、星野さんの支えも随分と大きいことを感じます。星野さんのこんな言葉があります。

“子どもの頃に見た風景がずっと心の中に残ることがある。いつか大人になり、さまざまな人生の岐路に立った時、人の言葉でなく、いつか見た風景に励まされたり勇気を与えてられたりすることがきっとあるような気がする。”

これは自身の原風景と重なることもあり、子どもと接するときに特に胸に留めている言葉です。ですが、不思議なのが、いざ自身が岐路に立たされてみると、星野さんという“人の言葉”に随分と励まされ、勇気を与えてもらっていることに気付きます。突き詰めて考えて見ると、星野さんとの出逢いは(と言っても本の中ですが)、ひとつの僕の子どもの頃の風景でした。人間も自然であると教えてくれたのは星野さんでした。情報が極めて少ない世界が持つ豊かさ、そこから生まれるクリエイティビリティの大切さ(デザインの本質)も教えてくれました。自分の心の中には、永遠に星野さんの居場所があります。自身が困難なときも、安息なときも、それは根源的で揺るぎない存在です。星野さんのやさしく慈愛に満ちた眼差しや瑞々しく誠実な言葉は、いつもさまざまな示唆を与えてくれます。

11月16日(金)から12月5日(水) まで、FUJIFILM SQUAREで企画写真展「星野道夫 アラスカ 悠久の時を旅する」が開催されます。星野さんが事故で、亡くなる直前まで撮影をしていたロシアのカムチャツカ、チュコト半島の未発表写真も展示されるそうです。岐路に立たされたとき、星野さんはいつもそこにいます。