川瀬敏郎 一日一花

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毎日の様に花を生けていた以前ほどではありませんが、それでも時折、花を生けます。
もう随分と前に川瀬敏郎さんの「今様花伝書」に魅せられ、
花は暮らしに潤いを与えると同時に、心を清らかにしたり、心を鎮めるものでもあるという事を知りました。
慎ましくありたいと思っていた自分のかけがえのない本となりました。
そんな川瀬さんの本が昨年暮れから本棚にもう一冊増えました。「一日一花」。
川瀬さんが震災後の一年間、毎日祈りの花をいけつづけていたものが本になったものです。
日ごとページをめくると、清らかな祈りの花に言葉が灯ります。
植物の索引も嬉しく、とても美しい本ですので、ぜひに。
辰巳芳子さんとの対談「スープに近い花」で、お二人はこんな事を仰られています。
 

辰巳 ところで川瀬先生がお花というものを教えるときに、特に心がけていることが何かありますか?
川瀬 最近は教えるときに、縦糸的なことはあんまりいわないようにしているんです。
   つまり日本の花はこうです、というようなことをいってしまうと、
   皆さん何かわかった気になって、花が形式的になってしまう。
   それよりも日々何でもないこととして花を生け続けるほうが凄いことですので……。

辰巳 ほんとにそう。そのことにみんな気がつかなきゃいけないね。
川瀬 ヨーロッパなんかの暮らしの豊かさというのはそれでしょうね。
   日々の中にこそハレがあるというか、何でもない普段の暮らしを大切にする。
   日本人はどうもその逆で、ハレの日だけが特別で日々はぞんざいですから。

辰巳 おっしゃる通りです。そういうことを改めて考えるためにも、
   この非常に洗練された『一日一花』という御本は貴重ですね。
   美はどのようにして追求するものか、この御本から少しずつ見えてくるんじゃないかしら。
   喜怒哀楽を心の底まで落とさず、その手前で止める――これが日本人にはなかなかできないのよね、
   武士(さむらい)としての精神的訓練がなくなった現代では。そういう点からいっても、
   情に溺れずに美の真髄を探り続けたこの『一日一花』は、極めて珍しい知的なお花の本だと思います。

川瀬 情感に溺れた花は饒舌になってしまうんですね。
   私自身はそういう饒舌な部分は極力切り捨てたいと思う人間なんです。

辰巳 これは自分の美意識を磨くためにも、是非一冊、座右に置いて役立つ本ですね。
   素晴らしい御本を本当にありがとう。