伝えるということ

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今日付(3/9日)の毎日新聞に載せて頂きました。福岡だけではなく九州版ですので、良かったらご一読くださると嬉しいです。

実は何度も取材をお断りしていました。自分は何者でもないのと、道半ばであること、それと交通事故の事もありました。ですが、丁寧なお手紙を頂きました。震災直後から被災地に入られ人に寄り添い取材をされてきたこと、またこれまでの取材記事を読ませて頂くと、どれも重みのあるもので、心を動かされました。そして、取材を受けることにしました。当日は、思いの丈を話しました。小さなメモに漏らさず書かれていました。それから写真を何百枚も。写真は本当に苦手ですが委ねました。取材が終わって日暮れ頃、チャイムが鳴って開けると、その記者さんが立っていました。カメラを数台抱え、脚立をぶら下げ、何度も頭を下げながら「たくまさんのことを伝えるのに、もう一枚だけ」と。伝えることが生業の僕は、果たして彼ほど相手の事を想っていただろうか、と自己をかえりみました。どんな写真と原稿が上がってきたとしても僕から言うことは何もない、とも思いました。

そして、今日。何の誇張も衒いもない、とても誠実な記事でした。そして、それは次のステップに向かおうとしている僕にとって、これまでの「証」のようなものにもなりました。心より感謝致します。本当にありがとうございました。

追記 掲載内容がwebにアップされました。以下に記しておきます。

一つ一つ、手で拾った活字は言葉になって紙に編み込まれる。

 福岡市東区の活版印刷所「青い月」には、大きさや字体もさまざまな40万もの鉛の文字が棚に並んでいる。中川たくまさん(35)が手で刷り上げる一枚一枚には大量印刷にない「手作業の証し」がある。

 中川さんは本の表紙などを活字を使ってデザインする。ブックカバーに小説の一節を活版印刷し、贈ることもある。子供たちの活版体験のために「出張印刷授業」もする。大量出版とは別の道を歩む理由はファッションや郷愁からではない。「消費され、忘れられるものでなく、暮らしを豊かにする物づくりであってほしい」

 昨春、交通事故に遭い左人さし指に後遺症がある。手で職を立てる中川さんには大きな苦痛となったが、妻なつきさん(35)の手伝いもあって、再び活版に向き合えるようになった。「僕を必要としてくれる人たちが笑って暮らせるように」。拾い、組み上げ、贈るのは、文字だけではない。

【写真・文 津村豊和】