イニシャル入れ便箋「よこの日、たての日」

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わたしたち『青い月』はこれまでも、活版印刷というものが消費や付加価値の為ではなく暮らしに溶け込む身近なものとして、名入れ便箋のワークショップなどを繰り返し行ってきました。ですが、それは非日常的なことで日常的に何かできないかと考え、まずは手製の便箋と封筒に、オーダーでイニシャルの活字をプレスすることから始めることにしました。わたしたちは印刷物をつくるのが目的ではなく、それを使うことで生まれる「時間」に想いを馳せています。大切な誰かに手紙をしたためる時間というのは、自分に正直なれる静かでとても愛しい時間です。ですので華美な装飾は行わず気を衒わない控えめなデザインにしました。使う人のものになるのがわたしたちの喜びでもあります。和紙は、漉き師の仕事をより身近に感じて欲しいという想いもあり、わたしたちが信頼する漉き師の和紙を使わせて頂いています。佐賀七山の紙漉思考室の前田さんの和紙は和紙でありながらフラットな表情も持ち合わせているので「よこの日」。宮沢賢治さんが生まれ育った岩手花巻の伝統工芸、成島和紙の青木さんの和紙は、「たての日」。確かに機械で大量につくられる和紙を使った便箋もあります。ですが漉き師によって1枚、1枚丁寧に刷られた和紙の風合いと書き心地は格別です。活字はカッパープレートという書体を使っています。存在感がありながらも気品溢れる書体です。活字は使うほどに劣化し使えなくなりますので、九州で最後の活字鋳造所山崎活字さんに活字を作って頂いています。できることはとても小さなことですが、綿綿と育まれてきた九州の活字文化を守り続けたいという願いもあります。

和紙の原料は楮や三椏(みつまた)、雁皮などの植物です。それらが太陽や雨の恵みを受けて育ち収穫されます。そして水に漬けて柔らかくなって樹皮に残る色筋や傷を取り除く「へぐり」、流水にさらしながら黒皮などの異物を取り除く「ちり取り」、竹簀を桁に取り付けて行う「紙漉」、そして脱水、乾燥などと数々の工程を経て、和紙は出来上がります。普段目にする和紙はとても白いかもしれませんが、お二人の和紙は負担をかけて塩素で無理に漂白をされないので、植物本来のやさしい色をしています。活字は注文が入るとたとえ1文字でも鋳造機をガスで暖め、活字の字面部分のもとになる凹型の原型である母型に合金を流しこんで作ります。山の様な大きな機械から生まれる豆粒ほどの活字。そのギャップに驚きますが銀色に光り、か細くもその端正な佇まいに気高さのようなものを感じずにはいられません。そうした長い旅路を経て和紙と活字はわたしたちの手元に届く訳ですから、やはり誠実で丁寧なものをつくりたくなるのは必然です。そうして、手仕事のリレーで生まれた少しだけ人の気配を感じる便箋。最後はあなたの想いを手に乗せてペンを走らせて下さると、とても嬉しいです。

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