足りない活字のためのことば

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岩手、陸前高田に行ってきました。今回もまた珍道中だったのですが、その報告は後日行うとして、ランチを食べた陸前高田のカフェレストランでとあるチラシをふと手にし、嬉しくなり、込み上げてくるものがあったので、そのお知らせを。銅版画家であり、レタープレスプリンターでもある溝上幾久子さんという方がいます。僕は彼女のディキンソンの詩集をプレスするセンスや、活版というものを触媒(もしくは装置)として過去や未来、まちや人々とつながっていく活版との向き合い方にとてもシンパシーを感じています。活版(レタープレス)は印刷物である前に、想いを携え、風に乗り、時間を越えて、何処までも届く手紙のような存在だという事を僕も知っています。

そんな彼女が昨年、三陸・釜石の印刷工場で、東日本大震災を生きのびたわずかな活字を使って「足りない活字のためのことば」展というものを企画し、様々な方の協力を得て東京のギャラリー「馬喰町ART+EAT」で行いました。その後、つい先日まで岩手県釜石の「かだって みんなの家」で開催されました(そのニュース)。その展覧会はとても話題となり、書籍として出版されることが決まっています。その巡回展が、6/8日(日)から陸前高田の隣町、住田町で始まります。阪神淡路大震災で多くの活版所が廃業したことを聞きました。また、ここ福岡で起きた西方沖地震のときも相当数の活版所が廃業しました。大切なものが詰まったこの展示、いつか、活版のふるさとである長崎や僕が活版に初めて出会ったここ福岡の皆さんにも見て欲しいなとも思います。以下、チラシから。


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三陸・釜石の印刷工場で、東日本大震災を生きのびたわずかな活字。人の手から手へと託されたその「足りない活字」のために、12人の作家が「ことば」を紡ぎました。
やがて「ことば」に寄り添う「え」も生まれ、一冊の本のような展覧会がはじまります。

「足りない活字のためのことば」
https://www.facebook.com/kamaishiletterpress
岩手県住田町世田米「泉田家弐番蔵」二階
6月8/9/13/14/15/16/20/21/22/23日

「ことば」
今福龍太/OKI/乙益由美子/姜信子/國峰照子/管啓次郎/谷川俊太郎/多和田葉子/ドリアン助川/ぱく きょんみ/穂村 弘/枡野浩一

「え」
今津杏子とDamon Kowarsky/富田惠子/早川純子/廣瀬理沙/松田圭一郎/松林 誠/溝上幾久子

「活版文字組・印刷」
溝上幾久子


[概要]

ここに、活版印刷のための活字がひと組みあります。でも、数は揃っていません。揃っていないどころか、ほとんどないに等しいかもしれません。この活字は、かつては岩手県釜石市の印刷会社、「藤澤印刷所」社屋3階の活字棚に整然と並んでいました。けれども、2011年3月11日の東日本大震災で無残に床にばらまかれ、その後、社屋の2階まで及んだ津波によって、社屋そのものも壊滅的な被害を被ったのです。

10ヵ月後、瓦礫処理のボランティアが現場に入り、これらの活字は廃棄されようとしていました。しかし、たまたまボランティアに入っていた坂井聖美(博報堂プロダクツ)はこの味わいある活字を全て処分するのは忍びないと考え、藤澤印刷所の厚意で一部を譲り受けました。(同社は現在場所を移し、外注先の協力を得つつ、再建を図っているところです。)

足りない文字だらけのこのひと組の活字は、縁あって銅版画家の溝上幾久子の手に委ねられることになりました。溝上は、ADANA8×5という簡易印刷機を購入し、これらの活字を使って小さな作品を作り始めました。その古い活字は、現在のものとは微妙に異なる書体であったり、もう新たに作られることのないであろう木製の活字であったり、微細な欠けや傷にも何ともいえない味がありました。 活字を表現するための紙を探す過程で、西谷浩太郎(平和紙業)の協力を得、さらに長野県篠ノ井で活動するグラフィックデザイナー・宮下明日美も加わってKAMAISHI LETTERPRESS(カマイシレタープレス)というプロジェクトが立ち上がりました。

何かの巡り合わせで生き残り、ひとの手から手へ託されたこの活字のために展覧会ができないか、そしてそれを通じて今も復興に向けて歩み続ける港町・釜石に思いをはせる人が増えれば……そんな思いを抱えてKAMAISHI LETTERPRESSのメンバーが馬喰町ART+EAT(バクロチョウアートイート)を訪ねたのは、2013年春のことです。不完全であること、不自由であること、それを前提に何かがはじまるのであれば、どこかでだれかの役に立つかもしれない、そういう展覧会です。馬喰町ART+EAT主催の武 眞理子をクリエイティブディレクターに迎え、プロジェクトは大きな転換点を迎えました。武の発案で、日頃「ことば」を表現手段としておられるみなさまに、「この足りない活字のために、詩、あるいは俳句、あるいは短歌を作っていただけないでしょうか?」という呼びかけを行うことになったのです。不完全であること、不自由であること、それを前提に何かがはじまるのであれば、どこかでだれかの役に立つかもしれない、そんな「足りない活字のためのことば」展にどうぞ力をかしてください。この呼びかけに応え、むずかしい取り組みに挑戦してくださったのが、前出の12人の作家です。さらに、「ことば」の作品に寄り添う「え」を制作するために、溝上幾久子キュレーションによる6組のアーティスト(釜石巡回展から松田圭一郎が加わり7組に)が参加することになりました。