宮本常一講演選集

宮本常一

二十歳の頃、はじめて勤めたデザイン事務所は、『九州の村(現在は九州のムラ)』という雑誌を作っていた会社でした。私が入ったときは既に版権は別の会社に譲渡されていましたが、クライアントの多くは町や村の役場や生産者さんたちでした。町村要覧(その村の人口や資源、産業をまとめたもの)を作ったり、神事や村祭りなどの祭事習俗のポスターや物産のパッケージなどをデザインしていました。広告のような華やかさはありませんでしたが、ずっと福岡の都心で育ったこともあり、知らない地域の人たちの営みを知り、そして直接関わりあえることに喜びを感じていました。デザインというものが奇をてらったり、華やかなものでもなく、背景となり必要な人へ届けるものとだという今のデザイン感を培われました。

その頃、出会った民俗学者の宮本常一さんは、どんな有名なデザイナーよりも私を捉えました。生活者への真摯な眼差しと関わり方がどのデザイナーよりもデザイナーだと感じました。以降、心酔しきりです。そんな敬愛して止まない民俗学者、宮本常一さんの講演を集めた『宮本常一講演選集』が『農村漁村文化研究会』から出版され始めました。くわしくはこちら(PDFが開きます)。昭和40年代~60年代にかけて、氏が全国で行なった講演や講義をテーマ別に集成されたものです。日本人の食や暮しなどの生活文化や、産業や生業の立て方、郷土の文化や資源をどうとらえ活かして行くかなど、これからの地域のデザインを行う場合に多くの指針を与えて下さりそうです。