終わりの始まり

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一昨年、思いがけない依頼がありました。それはブックジャケットを全校生徒に贈りたいと九州高校の理事長さんからの依頼でした。幸福感に包まれた一日を過ごし、それから地道にコツコツ制作して2,000部、無事に納品を終えていました(経緯はこちら)。理事長とは依頼があった頃から、文通での交流が始まりました。いつかの手紙で、最近は上林暁(かんばやし あかつき)、串田孫一、葛西善蔵、小山清など随筆、私小説を好んでいるような事を綴りあっていたら、ある日の手紙に一冊の本が添えてありました。「なかがわさん、図書室で上林暁の随筆が捨てられそうになっていたので助けました。送りますね」と、この方は本当に本が好きなんだなあとしみじみ想いました。それ以前もそれ以降もずっと、理事長は僕らの事を気に留めて下さり、ずっと応援し続けて下さっています。

そして、昨日はそのブックジャケットが生徒達に贈られる50周年式典でした。その厳粛な式典に呼ばれ、久しぶりにネクタイを絞め小雨振る中、夫婦で参加してきました。来賓席の中でも僕らの席は高校生達の真隣。以前、学校を案内して下さったときも「この生徒達が受け取りますから」と仰っていました。こうして再び、引き合せて下さるその小さな配慮に胸が熱くなりました。僕らは常々、消費され忘れ去られるものではなく、暮しを豊かにするものであってほしいと、ものづくりを行っています。丁寧に作ったものは永い時間を約束します。彼らが社会に出るときではなく、10年後、30年後、彼らが岐路に立たされた時、理事長が僕らのブックジャケットを使って伝えようとした真意を、少しでも感じてくれたらこれほど嬉しいことはありません。特別な一日になりました。この様な機会を与えて頂き心から感謝しています。

さて、式典の記念講演では理学博士の佐治晴夫先生がお話をされました。佐治先生と言えば、NASAボイジャー計画のゴールデンレコードにバッハのプレリュードを収録することを提案された方で、子どもの頃、その話を聞いてとてもワクワクしたのですが、こうしてお話を直接聞けてとても感動しました。佐治先生は「かぐや」が月から見たふるさと(地球)の映像を流すことから始まり、受け取り方だとは思いますが終始“平和”をテーマに話されていたかと思います。“私がいてあなたがいる 、ではなくあなたがいるから 私がいる”と、多様性は大きなものではなく、とても小さな関係性から始まるものだと。平和について考える時間が随分と増えてきましたが、平和とはやっぱり佐治先生の仰るようなことだと感じ、反芻しました。最後、佐治先生はピアノでバッハのプレリュードを麗しき旋律で奏でられました。「これから」が「これまで」を決めると。今日のこの想いを忘れずにいたいと思います。