分岐点

ようやく痛みが和らいできた。意識して、少しづつ出歩くように。何だか歩きづらいと思うと、革靴の底が歪に随分と欠けてしまっていた。引きずって歩いてた頃は靴に特に違和感を感じていなかったが、歩きづらさから回復を知るのも、何とも妙なものだ。それにしても欠けた靴底は何処へ行ってしまったのだろう。

思いがけないところで思いがけない人と出会う。何というめぐりあわせだろうと思う。まるで線路の分岐点でポイントが変わるように、日常の細部で、微かに感情の流れが変わる瞬間がある。それらに耳を澄ませ、身を委ねてみようと思う。見えない“もの”たちが、粋な計らいをし、思いがけない未来を届けてくれるような気がするのだ。

事故にあった日以降、世界はより鮮明に写りはじめた。働き始めた十代の頃、Aの人生とBの人生があって僕はAの人生を選んだ。と、思っていたが、それは当時の僕にとっての精一杯の分岐点だったのだろう。今、目の前に現れたものが、僕に与えられた分岐点だとすると、あの頃の僕だったら、きっと怖くて仕方がなかっただろうと思う。でも、あの頃の決断が、歪ながらも充分な轍を作ってくれた。傲ることもなければ、臆することもない。このまま、自然に進もうと思う。