社会的養護とデザイン



どうか、これ以上、被害が広がりませんように。




4年程前。義務教育が終了した後、児童養護施設を退所した子どもや、様々な事情で家族と離れて暮す子どもが、働きながら自立を目指していくことを支援する「自立援助ホーム かんらん舎」が出来ると聞いて伺わせていただいた。福大近くのいわゆる、“ふつう”の一軒家(“ふつう”と言う言葉は社会的養護の観点では使うことを躊躇するが、この場合は相応しいものとして)で、さまざまな事情を抱えた子どもたちが暮し、支援するおとなの姿があった。現在では、20名強の子どもたちがここを出て、社会へ巣だっていったそうだ。福岡市にはそういった自立援助ホームはひとつしかなく(全国にも数十カ所しかない)、上記のような子どもたちを一心に受け止めている。そういった支援を必要とする子ども達は、その何十倍も存在すると言われている。自立援助ホームの存在は社会へ巣立つ子ども達の、物質的・精神的な基本的必要を満たす訳だから、こういった場所にこそ、デザインは必要だと思っている。デザインは今は皆無だが、ロールモデル(空家を利用したもうひとつのシェアハウス等)になりそうな要素も多分にあると思っているので、引き続き探っていきたい。

さて、本題。その「かんらん舎」の母体である「青少年の自立を支える福岡の会」が、東京の児童養護施設から社会に巣立つ子どもたちの自立支援を行なうNPO「Bridge for smile」(以下B4S)の代表の林さんを福岡に呼ぶとお聞きしたので大雨の中、春日まで。福岡の児童養護施設関係者、里親、行政関係者など、社会的養護、児童福祉に関わる方が大勢集まって、熱心に耳を傾けていた。B4Sの活動は、これまでの社会的養護を必要とする子どもたちの取組みと一線を画していて、一人暮らしを準備するまでの「巣立ちプロジェクト」や社会に出た後の子ども達をフォローする「アトモプロジェクト」、子どもたちが夢を語る場「カナエール」などデザイン的な(遊び心?)要素を仄かに感じていた。井上ひさしさんの言葉だが、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに〜」は、デザインを行なうときに心掛けていることだが、こういった重く深い領域にこそ、わかりやすさとやさしさが必要で、B4Sが行なう様々な取組みはそれらを体現しているような気がしていたので、直に話が聞けて良かった。何より秀逸だと感じたのが、子どもたち、施設内、施設間、施設と社会間などへのアプローチを全方位的に同時に成立させている(させようとしている)ことだった。もちろん、そういった取組みは現場からは異質なもの、ときには劇薬に見られがちだが、それを自覚、配慮しながら行なわれているのが、更に印象的だった(言葉選びひとつをとっても)。動機はどうあれ何かに一度、光を当てたり関わりをもったら、その対象に敬意を払い続けることが大切だと感じている。周囲の反応はどうあれ、何よりその対象である子どもたちが、永続的に希望を持ち続けているB4Sの取組みに学ぶことは多い。



追記
ちなみに、B4Sさんの新しくなったホームページは、プロボノ(仕事のスキルを活かして行なうボランティア)によって作られている。福岡にも「ふくおかかつぎてけいかく」というプロボノの取組みがある(webサイトのデザインはCGFMさん)。児童福祉に限らず、さまざまな悩みや課題を抱えているNPOや各種団体の方は、一度お問い合わせを。また、デザインに関わりがある方をはじめ、何かしらのスキルをお持ちの方は、「支援する側」として、そういう働き方もあるので、ぜひ。