旅の準備

旅の準備。それは、僕の場合、本の準備のことを指す。どんなに小さな旅でも本は必須で、どんな本を持っていこうか(決まって静謐な物語だけども)と選ぶ時間に、とても愉悦を感じる。本選びに夢中になりすぎて肝心の着替えは当日の朝、と言う事もよくある。そして、結局選びきれず何冊も持って行くので、結構な重量になっている。電子書籍にすれば、その重さからは解放されるのだろうけど、何より紙が好きなので、それはないだろうと思っている。以前、博多から東京まで新幹線で行ったことがあるのだけど(信じられないがあの頃は飛行機が苦手だった)、とても心地良く、静かにゆっくりと読書ができた。新幹線の最終号車の最終列に席を取って、静かに本を読んだ。目が疲れたら窓の外の風景を眺める。名もなき景色に、その営みに、どうしようもない切なさが込上げてくる。一息つきたくなったら、客室乗務員さんが運んでくれる珈琲を飲む。決まって予想以上に熱々な珈琲がゆっくりと、身と心に沁み入る。そして、また物語の中へ戻る。“いつでもすばらしい書斎と思うのは、遠くへ行く列車の指定席だ”と、詩人の長田弘さんが言う。その通りだと思う。さて、今度の書斎には、どの本を持っていこうか。案の定、まだ決めきれていない。