活字のある風景

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寺尾さんから譲り受けた活字。その多くは名古屋にある活字鋳造所さんで作られたものです。
届いた活字にはいつも手紙が添えてあり、激励の言葉に寺尾さんも
「がんばらんといかんね」といつも仰られていました。

その活字鋳造所さんが『東海モノ語り-技を守る・活字職人-』として、
29日午後2時05分からのNHK「お元気ですか日本列島」で放送されるそうです。
活版印刷にとって、もっとも大切な活字が生まれる風景をぜひご覧ください
(テレビがない暮らしなので、良かったら感想を聞かせてください…)。

それから、今。おそらく九州で最後の、活字鋳造所さんと対話を重ねています。
名古屋の鋳造所さんと同じような問題を抱えており、活版に携わる者としてどう未来に繋げて行くか、
しっかりと探っていきたいと思っています。

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2,000部のブックジャケット

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帽子作家でもあるは昨年、帽子をほとんどつくることはありませんでした。
その訳は、一昨年前の暮れ、とある高校の理事長さんから思いがけない依頼があった為です。
理事長さんは生徒たちに本を読んで欲しい、活字に触れて欲しいとの願いから、
全校生徒に僕らのブックジャケットをプレゼントしたいと依頼されました。

冬のある日、僕らはさっそく学校に呼ばれ、校内を並んで歩いて案内して下さいました。
「この生徒たちが受けとりますから」と、やさしく、朴訥と話され
理事長さんの強い意思と、生徒達への温かな愛情を感じました。
学食を一緒に頂きながら「校訓と学校名を刷りましょう」と提案すると
「いや、いつもの宮沢賢治さんの言葉とあなた方の屋号が入ったものでお願いします」。
と、おどろく事を仰られました。
「本を読んで欲しいのはもちろんですが、今は1から2の間が欠けてしまっています。
その間には大切なことがあります。その間のことを生徒たちに伝えたい。
あなた方が大切にされている“人の気配”、まさにピッタリだと思いました。
今はわからないかもしれないけれど、社会に出て、いつか気づいてくれると嬉しい」。
僕らよりも僕らのことを理解してくださっているような気がして、とてもこそばゆかったです。
ですが、水面に浮かんだ葉っぱが月日をかけて湖の底にゆっくりと沈んでいくように、
染み入るように浸透した借り物ではない、その人の中から生まれた想いと言葉。
僕らは消費されるものではなく、自分たちの表現手段としてでもなく、
より人に寄添いその人のものになっていくようなものを作りたいと常々思っていて、
その想いが伝わりこの上ない幸福感に包まれ家路に着きました。
それまで、ひと月につくれたブックジャケットの数はおよそ30部ほど。
2,000部は途方も無い数でしたが、代え難い喜びがありました。

それから、妻は「紙漉思考室」さんの和紙を断裁し、折って、縫って、玉を留めて、印刷をし、検品をして、
それから梱包と、地道にコツコツと2,000部、1年かけて丁寧につくりました。
繰り返すということは簡単なようで実は一番難しいことなんだと、最近、妻を始め様々な方に教えてもらっています。
そして、ようやく先日無事に納品することができました。理事長さんは、感慨深く大層喜んでくださいましたが、
僕らの方が感謝してもし尽くしきれませんでした。
困難な時期もありましたが、次の世代へ活版を伝えれることや、ものづくりに真摯に向き合う時間を与えてくれたことなど、
何事にも代え難い一年を過ごさせてくださいました。
生徒たちの手に渡る日が今から楽しみで仕方がありません。物語が活字で印刷され、
そして手にした人たちにも物語が紡がれて行って欲しいとの願いから名付けた「物語のあるブックジャケット」。
思わぬかたちで僕らにも物語を紡いでくれました。

※依頼があった頃の話は「手の間」にも書いてくださっています。
ブックジャケットも手の間さんで販売しておりますので、よろしかったら。

子どもたちに活字の話を

西海市教育委員会の依頼で西海市の小学6年生たちに出張授業を行なってきました。天正遣欧少年使節や活字・デザイン・印刷などの話を。あわせて加津佐図書館所蔵のグーテンベルク式活版機を使っての体験も。ふるさとの文化を感じ、見識を広げることにつながればと思っています。

はやいもので、去年の今頃は長崎県教育委員会の依頼で、ASEANの東アジアの中核を担う次世代リーダーを養成する事業の一環でマレーシアとカンボジアの子どもたちに、日本(長崎)の活字や印刷の話を行なっていました。長崎は活字や活版だけではなく、平版や写真、出版など「伝える」ことのふるさとでもあります。地道ですが、こうして継続的に活動していくことで、まちがより魅力的なものになっていければと思っています。

現在、今年100年を迎えた長崎県立図書館の再整備計画が出島か大村の方向で進んでいます。先日、せんだいメディアテークを訪れた際、場が持つ力や仙台の人達のエンパワーメントの高さに心から感動しました。ああいう場所があったらなあと、少し羨ましくもなりました。メディアとして活版を学べる場所もありました。離島が多い長崎には年中行事や祭礼など特色のある様々な「ハレ」と「ケ」の風景があります。図書館単一としてではなく、そういった情報・文化複合施設になればと淡い期待と青写真を描いています。