本屋さんで活版

お天気にも恵まれ、美しくあたたかな木漏れ日の差す中「「Enjoy printing!」、無事終了しました。お越し下さったみなさま、ありがとうございました。ご自身でプレスされた栞、お気に入りの本にぜひ使ってください。活字は本の中や、本の傍がやっぱり居心地が良いと思います。本屋さんの前で、そして人々が行き交う屋外でこのような活版の催しができたこと、とても意義深いことだったと感じています。ありがとうございました。ブックスキューブリック店主、大井さんが選んでいたもうひとつの言葉をご紹介。

「たとえば知性というものは、すごく自由でしなやかで、どこまでもどこまでものびやかに豊かに広がっていくもので、そしてとんだりはねたりふざけたり突進したり立ちどまったり、でも結局はなにか大きな大きなやさしさみたいなもの、そしてそのやさしさを支える限りない強さみたいなものを目指していくものじゃないか、・・・」

これは、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」から。実は僕が倒れていたとき、とある方から偶然にもこの一冊をお見舞いで頂きました。今、庄司さんのような本が必要なのかもしれないね。そんな事も大井さんと話しました。自分を取り巻く世界との苦悩や葛藤、揺れながら悲しさや虚しさを抱きつつも、ブレない強い意志と信念で行動して行く。確かに不様で青々しいけれども、そこには、確かに他者への「やさしさ」があります。賢治さんとも重なるところがあり僕にとっても大切な一冊となりました。

好きな一節を。本当はこの後に続く一節が、ちょうどその時の自分の心境とも重なるところがあって最も好きです。機会があったら、ぜひ読んでみてください。

「ぼくは海のような男になろう、あの大きな大きなそしてやさしい海のような男に。そのなかでは、この由美のやつがもうなにも気をつかったり心配したり嵐を 怖れたりなんかしないで、無邪気なお魚みたいに楽しく泳いだりはしゃいだり暴れたりできるような、そんな大きくて深くてやさしい海のような男になろう。ぼくは森のような男になろう、たくましくて静かな大きな木のいっぱいはえた森みたいな男に。そのなかでは美しい金色の木もれ陽が静かにきらめいていて、みんながやさしい気持ちになってお花を摘んだり動物とふざけたりお弁当をひろげたり笑ったり歌ったりできるような、そんなのびやかで力強い素直な森のような男 になろう。そして、ちょうど戦い疲れた戦士たちがふと海の匂い、森の香りを懐かしんだりするように、この大きな世界の戦場で戦いに疲れ傷つきふと何もかも空 しくなった人たちが、何故とはなしにぼくのことをふっと思いうかべたりして、そしてなんとはなしに微笑んだりおしゃべりしたり散歩したりしたくなるような、そんな、そんな男になろう・・・・。」庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」

ポルカとブンペル

いよいよ今週土曜日となりました。「ブックオカ」のメインイベント、「一箱古本市inけやき通り」が行なわれる11月3日(土)、ブックスキューブリックけやき通り店で「Enjoy printing!」を行ないます。キューブリックけやき通り店で、書籍を購入された方に活版印刷(レタープレス)のしおりをプレゼント。お店の前にプレス機を準備していますので、レシートと引き換えに一冊に一枚、紙を選び、ご自身でプレス(印刷)を楽しんでください。

紙は、本のお祭りの日でもありますので装幀家、名久井直子さんが作られ、今月発売された「ポルカ」をご準備。以下、名久井さんの言葉。

「海外でひろった、変な、でも素敵な紙をイメージしました。風合がガサッとしているのに、よく見るとチリの色がカラフルです」

確かに変ですてきな紙です。きれいな色の玉の入り具合もランダム。何処か懐かしく、とても愛嬌のある紙だと思います。紙の色(名前)もメレンゲ、キナコ、トウフ、ソバ、コンニャク、モモ、ライム、ソーダ、アケビ、カステラと、とてもチャーミング。当日何が準備されているか、どうぞお楽しみに。それから、同時期に発売された寄藤文平さんがつくられた、クラフト紙やダンボールのような「ブンペル」も準備。ブンペルは、文化、ペーパー、パル(友人)を組み合わせた名前だそうです。素敵ですね。ポルカはカラフルで少し薄い紙です。ブンペルは素朴で厚みのある紙です。キューブリックで本を購入し、お好きな紙を選んでプレスを楽しんで下さい。

enjoy printing!

週末の夜になると、海外のレタープレスのプリンターさんたちのHappy printing!やEnjoy printing!の声が聞こえ始めます。その声にいつもそわそわ、わくわくしています。そのそわそわをおすそわけできればなと本好きから本好きへ、ささやかな贈り物を。ブックオカのメインイベント、「一箱古本市inけやき通り」が行なわれる11月3日(土)、ブックスキューブリックけやき通り店で「Enjoy printing!」を行ないます。キューブリックけやき通り店で、書籍を購入された方に活版印刷(レタープレス)のしおりをプレゼント。お店の前にプレス機を準備していますので、レシートと引き換えに一冊に一枚、紙を選び、ご自身でプレス(印刷)を楽しんでください。活字に触れて欲しいので、店主の大井さんに、文学の一節の引用をいくつかおねがいしています。そのひとつを。

「みんなに本を読んでもらいたい、文学者や詩人になるためではなく、もうだれも奴隷にならないように」
ジャンニ・ロダーリ

他にもいくつか引用を準備できればと思います。キューブリックのオススメ文庫を購入して、ブックオカ特製カバーに、キューブリックのオリジナルのレタープレスのしおりを。当日は美美さんの「モカに始まり」も店頭に並ぶ予定です。木漏れ日と秋風が心地良い今の季節。木にもたれ掛かって珈琲を飲みながら、ページをめくりたいですね。

モカに始まり

珈琲美美店主の森光さんが、11/1日に手の間さんから書籍「モカに始まり」を出版されます。一気に読むには勿体なく、ドリップをするようにじっくりとゆっくりと時間をかけて深く味わいたい本です。それから、ますます珈琲の事が好きになりました。ページを開いては閉じ、開いては閉じ、何度もいつまでも大切にしたい本。ちなみに、本の巻末につける検品紙(40mm×40mm)は、森光さん自ら探してこられた200年程前のイギリス製の小さな小さな活版機を使って、ご自身で刷られています。珈琲のことは勿論、その探究心と仕事に対する情熱、スマートな心配りなど、多くを学ばせて頂いています。発売は11/1日から。予約を手の間さん、美美さんで承っておりますので、ぜひ。本当に愛おしくなる本です。以下抜粋。


『モカに始まり』 2012/11/1発行
イエメン、エチオピアのコーヒー産地を巡る貴重な旅の記録!一杯の珈琲から世界が見える。

訪れる観光客はまずいない、イエメン、エチオピアのコーヒー産地。山深い辺境の地に幾度となく分け入り、コーヒーの原点を探し続けた著者がその人生を尽くして見つけた珈琲の原点が、ここにある。貴重な写真をふんだんに使い、珈琲歴40年の著者が行き着いた豆の焙煎方法、美味なコーヒーのドリップ法まで詳細に記述。珈琲ファン必読の一冊です。

全216頁 定価2800円(送料1冊につき100円)
発行元/問い合わせ先 株式会社 手の間
〒810-0042福岡市中央区赤坂2-3-32赤坂MOKUZO2階
電話092-761-0395 FAX 092-761-6715

五足の靴

数年前、長崎、天草と活版印刷の源流を辿った際、そこにまるで先回りしたかのように、「五足の靴」の石碑がありました。それに限らず仕事で訪れた佐世保(四ヶ町アーケード横、夜店公園内)や、妻の故郷である唐津(唐津駅前)、そして地元である福岡(中州の川丈旅館)と、「五足の靴」の石碑を目にする機会が重なりました。それは、多分、読みなさいと言う事なのだろうと、「五足の靴」を読んでみました。

「五足の靴」は、与謝野鉄幹が、太田正雄、北原白秋、平野万里、吉井勇の4人を連れて九州を旅した紀行文。執筆者は「五人づれ」として匿名でリレートークのように、ひとりひとりが、訪れたその土地の事を書いています。その匿名性にユーモアを感じつつも、柳川が地元である白秋を除くと、九州は彼らにとって余程、遠かったのでしょう。中央との差を感じ、北部九州の街並や人々の暮しぶりを、辛辣に書いています。反面、唐津や千代の松原など風光明媚な場所の描写はとても美しく、今は無き当時の面影を感じることができました。と、言う訳でブックジャケットの九州編は、「五足の靴」で。引き続き、「手の間」さんで、購入できます。


(左)博多。屋形船の中にて。
(中)唐津。頷巾振山(鏡山)から。
(右)天草。パアテルさんは、信者が慕われていた大江教会の司祭、ガルニエ神父の事。