ランドナー、旅の準備

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IMG_1469僕は空白の35年と呼んでいるのですが、主立った民俗学の本はだいたい昭和50年前後を最後に発行されていません。もちろん、再編集をされたものは最近も出ていますが、その間とこれからのいわゆる研究的観点からではなく、もっと暮らしに寄り添った民俗的なものを見つめたいと思っています。ですが、限られた時間しかないわけですから、北部九州に重点を置こうと思っています。育ったまち福岡、子どもの頃にすごした長崎、そして民俗学との出会いの地であり、妻のふるさとでもある唐津(佐賀)。何者でもなくただの在野ですから、縁と轍は今はか細いかもしれません。ですが繰り返し繰り返すことで、けものみちのように轍が生まれ、次の誰かの何かのしるしになれば幸いです。

カメラは準備したので、次はランドナー(自転車)。出発地から目的地の直接的なものではなく、そのあわいにこそ、見落とされているものはあって、それを見つめるには自転車は最適です。ですが、これまででたらめな輪行の仕方をしていて、ランドナーの分解と組み立てに時間がかかってしまっては本末転倒なので、改めておじさん(@長住サイクル)に教わりに行ってきました。民俗学の旅ではインタビューなども予定しているのですが、戦前生まれのおじさんから、博多の思わぬ民俗的な話を聞く事ができました。一歩、足を出して踏み出すと何かが急に音を立てて動きはじめます。須賀敦子さんのこんな言葉があります。「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ」と。おじさんの愛情の詰まった仕事に身を委ね、さあ、ペダルを漕ぎます。

新しい旅

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あけましておめでとうございます。

今年も妻と福岡空港に2013年の初フライトを見に行ってきました。
氷点下の夜明け前、寒さに身を縮こませながらも、ランドナーとミニベロで。
昨年同様、警備員さんに送迎デッキを開けてもらい雪降る中、飛び立つ瞬間を待ちました。
いつもと違う雪化粧の空港は、ここではないどこか遠い北の国を想わせ高揚感を与えてくれました。
朝から働く整備士さんたちの仕事に感動し、胸いっぱいになりながら、初フライトを見送りました。
その後、荘厳で限りなく清々しい日の出が。あいにくの空模様で初日の出は期待していなかったので、
予期せぬ邂逅に心から感謝をしました。さあ、新しい旅の始まりです。

昨年のテーマは「旅」でした。大きな収穫のあった旅路となりました。
人生を左右する怪我はあったものの、それでも独立して初めて満足できる結果がついてきました。
そして、今年も「旅」。星野道夫さんの言葉を借りるのならば、

「目の前からスーッとこれまでの地図が消え、磁石も羅針盤も見つからず、
とにかく船だけは出さなければというあの突き動かされるような熱い想いです。
そしてたどり着くべき港さえわからない新しい旅です」

そんな心境です。さまざまな要因はあるかと思いますが、今、僕も力がみなぎっています。
生かされている命を精一杯つかいたいと思っています。
日本国内、そして海外はもとより、かつての日本へ旅を。
昨年、民俗学の原点である遠野物語の舞台、岩手県遠野を訪れましたが、
今年は柳田國男氏がパブリックドメインになったこともあり、
多くの民俗学のことが明らかに、そして身近になっていくと予想しています。
民俗学は、名もなき人々の暮らしのすぐ近くにあるもので、
伝承されたものを、人々のしあわせを願い、より良い方へ活かしていく学問だと信じています。
自分が軸としている福祉、子ども、教育、地域性、多様性など、たくさんのヒントがすでにそこにあります。
これまで以上に足を動かし、洞察、考察を重ねて、少しでも良い方向へ行くように、
デザインに活かしていければと思っております。

みなさまにとって幸多き一年となること、心より願っております。
本年もどうぞ、よろしくおねがいいたします。

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さあ、本は閉じて、自らの足で。

はじめての輪行

自転車を分解して専用の袋に入れて公共交通機関を使って運び、旅先で乗ることを「輪行」と言います。地球にやさしいのはもちろんですが、なにより旅先で自分の自転車に乗れるというのは、この上ない喜びがあります。私が乗っているランドナーは、もともとフランス語で“小旅行”と言う意味で、とても輪行に適しています。リハビリを終えたら、何処かへ旅したいと思っていたら、南島原の加津佐図書館にグーテンベルク式活版印刷機のメンテナンスに行くことになりました。思い立って妻を誘い、はじめての輪行をしました。交通機関を使って、小浜まで。それから南島原の加津佐まで、海沿いを往復約40km とても清々しい小旅行となりました。


前の晩、アトリエで分解の練習を。はじめての分解でしたが何とかうまくいきました。

博多駅で、ランドナーとミニベロを分解し、輪行専用の輪行バッグに詰め込みます。車内では車窓からの風景を楽しみながら、のんびりと読書を。

小浜に着きました。組み立てていきます。ブレーキが外れているトラブルがありつつも、妻の持ち前の器用さで乗り切ります。一人だったら途方に暮れていました。

ずっと海沿いを走ります。サンチャゴへの巡礼路は山、活版巡礼は海と言ったところでしょうか。

神々しい景色が続きます。“人間がこんなに哀しいのに主よ、海があまりに碧いのです”と、遠藤周作の言葉を思い出します。

妻がまるで、南イタリアのサレルノのようだと言った、南串山。海岸線と石積と起伏が独特の景観を作っています。南串山中学校の生徒たちが校舎の窓から大きな声で声援を送ってくれました。

目的地、加津佐。加津佐のシンボルである岩戸山が見える丘から。1590年、天正遣欧少年使節の一行がヨーロッパからグーテンベルク式活版印刷機をこの地に持ち帰ります。聖地と呼ぶに相応しく、彼らもこの景色を見ていた、ここで刷られていたと思うと、込み上げてくるものがあります。

加津佐で1591年に日本で初めての金属活字を使った「サントスの御作業の内抜書」が刷られます。現在、加津佐図書館にはその同型のグーテンベルク式活版印刷機があり、これを再び刷れるようにするのが、今回のミッション。

メンテナンスを行ない、再び刷れるように。図書館の方々が「また、サントスが刷れるんですね」と口々に仰られていたのが印象的でした。大切に語り継いで行って欲しい加津佐の文化です。

一仕事終え、帰路へ。夕陽がとても美しい場所なのですが、案の定の曇り。でも、十二分の景色。サヨナラ、加津佐。また来ます。

熱量日本一の小浜温泉。疲れた身体を癒します。作られすぎていない、こじんまりとした温泉街にホッとします。

地獄蒸し釜が何と無料。準備良く、妻が野菜や食器を博多から持ってきていました。カザミ(ワタリガニ)は地元の魚屋さんで400円程。同じく無料の日本一長い足湯に浸かりながらYEBISと一緒に。至福のひととき。

翌朝の凪いだ小浜の海。小浜の海はいつ来ても、やさしいです。人生において、心身ともに緩和できる場所があるとするのならば、僕らにとって、それは小浜のことなんだろうと思います。

最後に。心からおじさんに感謝を。おかげさまでこうしてまた、自転車に乗れる日が訪れました。

活版巡礼はつづく

11月に長崎県西海市で開催される、横瀬浦開港450周年記念事業企画展の概要が固まりつつあります。天正遣欧少年使節やルイス・フロイスに関連する資料を始め、バテレン迫害の時代の潜伏キリシタンの資料等も展示されます。秀吉が「バテレン追放令」を発したのが、私がアトリエを構えている筑前箱崎だったいうのも、何とも不思議なつながりを感じています。それで、天正遣欧少年使節がヨーロッパから持ち帰った、大きなグーテンベルク式活版機(レプリカ)も展示することになりました。展示だけではなく触れて欲しいと思うので、活版発祥の地、南島原市に直し(確認)に行くことになりました。久しぶりの加津佐。とても美しい場所なので、ランドナーで行くことにしました。旅の準備をしていると、クラシックカメラ、活字、輪行用のパーツと、どれも気難しいものですが、気持ちが通じ合ったときは代え難い喜びがあるものばかり。つくづく、人に近い物が好きなんだなあと思います。ではでは、行ってきます。

ルリユール

秋の気配というよりも、冬の足音が聞こえてきそうな、今日この頃。でも、自転車に乗るには清々しい季節なので、少し足を伸ばして郊外へ。暑い夏でも、寒い夏でも、必ずこの季節に花を咲かせる彼岸花に毎年、感心させられます。

遠くの町の図書館にある古い大きな活版印刷機を修理することになりました。気持ち良い季節なので、ランドナーで行こうかと思っています。子どもの頃から、大きなバッグに自転車を入れて、列車に乗ったり、船に乗ったりして、旅先で自分の自転車に乗ることに憧れていました。また、役目を終えたと思っていたものを直してふたたび使えるようにするのは、ルリユールおじさんになれる気がして、とても嬉しく有り難いことです。